弊所 弁護士・寺田の裁判例ノックですっ‼
皆さまに役立つ過去の裁判例を、ご紹介していきますっ‼
裁判例ノック60本目
東京地判 H29.9.5
【概要】
平置駐車場の提供義務違反とオプション工事の不完全履行を理由に、買主が手付金の返還と違約金支払いを求めた事例。
買主の請求は棄却され、オーナー側の勝利となったものです。
【結論】
買主が主張する内容は、いずれも債務不履行を構成するものではない。そのうえで、買主が代金を支払わず、売主が催告をしても応じなかったために本契約の約定に従い、違約金を没収したものであると判断。
そのため、買主が売主に対し、損害賠償を求めることは出来ないと判断された。
手付解除シリーズの最初は、オーナー側が勝ちの事例からです。
手付の性質について、今回は契約に規定してあるもので没収となりましたが、本来的なものではないです。無茶な注文をする買主だったようで、オーナー側は対応にストレスがあったと想定されます。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック61本目
東京地裁 H25.9.4
【概要】
残金決済の場で手付解除の意思表示をした買主に対し、売主が「履行の着手」後であるため認められないと主張し、債務不履行解除を行った事例。
買主が家族の説得に失敗し、かつ勘違いをしたというお間抜けな事案でもあります。
【結論】
「履行に着手」に当たるか否かについて、売主が行っていた準備は、売買契約の所有権移転・根抵当権抹消の各登記手続きと土地の引渡し義務の履行の提供と認められるものであるため、当たると判断。
その他、損害のないこと、説明義務違反、信義則違反についても、ないと判断した。
手付解除で最も典型的な問題である、「履行に着手」したか、否かの問題で、妥当な判断がなされた裁判例です。
売主担当者が、買主の意向をしっかりと確認していなかった点もあったようで、実は、危うい事情もあったものとなっています。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック62本目
東京地裁 H25.4.18
【事案】
代金5080万円、手付100万円、違約金508万円の不動産売買において、買主が約定通りに残代金支払いを怠ったため、売主が残違約金と損害金の支払いを求めた事例。
買主は融資の不安があることを連絡していることや、売主が買主名義の建物表題登記を行っていたという事情があった。
【概要】
売主が、建物表題登記を行っていることが、「履行の着手」にあたると判断した裁判例。不動産取引の慣習等の考慮しての判断となりました。
【結論】
買主の電話での連絡は、解除の意思表示に当たらないことを認定。建物表題登記が「履行に着手」にあたるかについて、買主名義の建物表題登記を行う慣習があり、それは代金決済日前にされることが通常であるため、履行の一部ないし前提行為を行ったと認定。
買主名義での建物表題登記を慣習として認めることで、履行の着手ありと認めた裁判例です。
様々な事情を考慮したうえで、しっかりとした認定がされた裁判例と言えます。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック63本目
東京地裁 H25.1.16
【概要】
売買契約締結後の事情について、媒介業者の調査義務違反による損害賠償請求が否定された裁判例です。
事案自体は東日本大震災による建物の傾きという特殊な例ですが、媒介契約一般について述べた参考となる例と言えます。
【結論】
媒介契約は、売買契約締結によって終了するものだが、契約後に発生した事象につき、要求があれば調査義務を負うと判断。もっとも、その義務も任意に協力すれば足りるものに留まるため、損害賠償の理由がないとして買主の請求を棄却した。また、売主への損害賠償請求も認めなかった。
媒介業者の調査義務についての裁判例は、事前調査の不備については多いですが、今回のような売買契約締結後残代金決済前までに大きな事象があった事例はかなり稀有ではあります。
売買契約締結前の入念な調査は必要ですね。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック64本目
東京地判 H21.11.12
【概要】
抵当権消滅のための債務弁済行為が、「履行の着手」に当たると判断された事例。
買主側の履行の着手が争われる事件に比べ、売主側の履行の着手が争われる事件は少ないですが、その類型に当たります。
【結論】
借入金全額を返済する行為は抵当権消滅のために必要な行為で、契約書に義務として明記されていることからしても必要不可欠といえ、負担の重い行為である。また、手付金が代金額に比べ非常に低額であることもあり、手付解除による契約見直しの機会を広く保障する趣旨ともいえないと認定。
「履行の着手」は、手付金の大きな論点ですが、その中でも売主側・買主側の履行着手や、手付金の額によって等色々なものに枝分かれします。
すべての把握は難しくとも、肌感覚を掴んでおくことは重要です。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック65本目
東京地判 H21.9.25
【概要】
隣地の境界を確定する作業、転居先をリフォームする作業は、売主の「履行の着手」にあたり、買主の手付解除は無効と判断したもの。
買主側の業者の事業計画によって解除を主張したもので、どうしようもない部分も多い事例ではあります。
【結論】
手付解除がされる前に、境界の確定・明渡しの前提となる転居先のリフォームを行っており、これは「履行の着手」にあたると判断。買主が、本件土地以外の周辺の土地も同様に解除していることは、買主側の事情であるため、本契約の無条件解除規定の趣旨にも合わないと判断。
「履行の着手」以外にも、契約解釈の問題があった本件です。買主が複数の土地を購入し、マンション用地にする予定でしたが、それがうまくいかなかったという難しい事情があるものでした。
とはいえ、売主との関係においては、妥当な結論と言わざるを得ないものです。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック66本目
福岡高判 H15.12.25
【概要】
手付解除について条項を定めなかった売主と不動産媒介業者の争いで、業者の報酬請求権が一部認められたという裁判例です。
結論として妥当なものとなりましたが、契約締結時のリスクマネジメントが十分ではないものと言えるでしょう。
【結論】
業者側は手付金を授受し、解除のついて予期できた一方、売主は想定が難しいといえる。もっとも、特約がなくとも、業者は商法512条により、相当の報酬を受けることができ、売買金額と手付金の割合、本件の出捐や損害等を総合的に考慮すると、手付金の半額程度の報酬が認められる。
結論としては、ゼロ百ではなく、妥当な結論となったかといえます。
しかし、媒介契約時に解約時条項を入れておくこと、売買契約時に報告すること等で訴訟までの紛争化を防ぐこともできた事案だったとも考えられます。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック67本目
名古屋高判 H13.3.29
【概要】
手付解除特約に、「履行の着手」以外に一定期間の日付経過条項もあった場合の裁判例です。
契約解釈の問題ではありますが、宅建業者と個人の取引についての言及もされています。
【結論】
民法557条が任意規定であるという前提のもと、いずれかの早い時期との解釈であれば、売主が業者であり宅建業法39条3項に反するもので、買主の手付解除の機会を実質的に奪うものとして採用できないと判断。
いずれかの遅い時期であるとの解釈であれば、買主保護にもなり、期間も長いものではない。
本件は、売主が宅建業で、宅建業法の規制があるという事情もありました。しかし、個人同士の売買であれば…、となると、また変わります。
疑義のない契約書の作成が、やはり一番のリスクマネジメントです。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック68本目
最判 H5.3.16
【概要】
履行期から1年以上ある土地の測量や代金提供が、「履行の着手」にあたらないとされた事例。
少し古い裁判例ではありますが、最高裁による先例性の高いものです。
【結論】
「履行の着手」にあたるか否かについては、総合考慮という規範を挙げたうえで、履行期が定められた趣旨・目的等も重要な要素となるとし、土地の測量や昭和61年10月の履行の催告も、本件では「履行の着手」に当たらないと判断。
買主の解除を認めた。
代金提供や土地測量をしただけで「履行の着手」に当たらない一方、履行期がいつからなら「履行の着手」になるかという問題は残ったままです。
総合考慮である以上、ケースバイケースというのが、難しいところです。
【文責:弁護士 寺田 健郎】