相続に関する手続きにはさまざまなものがありますが、法律上、弁護士でなければ対応できない業務が存在します。例えば、相続人間のトラブルが発生した場合の代理交渉や、裁判所での調停・訴訟の代理人としての活動は、弁護士の独占業務となります。
本記事では、弁護士でなければできない相続に関する業務について詳しく解説していきます。
1.弁護士でないとできない主な業務
(1)遺産分割に関する代理交渉
相続人同士の間で、遺産の分け方について意見が対立することは珍しくありません。例えば、特定の相続人が「自分は親の介護をずっとしていた。多めにもらうべきだ」と主張したり、「生前に兄は多額の援助を受けていたのだから、それを考慮して分割すべきだ」といった意見が出たりすることがあります。
こうした場合、話し合いがスムーズに進めば問題ありませんが、一度対立が深まると、感情的な対立に発展しやすく、当事者同士だけでは解決が困難になることが多いです。このような場合に、弁護士が代理人となり、相続人の代わりに交渉を行うことができます。
司法書士や税理士、行政書士は、こうした交渉の代理人になることは法律上認められていません。専門家として助言することは可能ですが、直接交渉に介入することはできず、弁護士のみが認められた業務となります。
(2)遺産分割調停・審判の代理
相続人同士の話し合いがまとまらず、遺産分割の協議が成立しない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることができます。この調停手続きでは、調停委員が間に入り、相続人の意見を調整しながら合意を目指します。しかし、調停でも合意が得られない場合は、最終的に裁判官が判断する「遺産分割審判」に移行します。
この調停・審判の手続きでは、弁護士が代理人として依頼者をサポートすることができます。弁護士が代理人となることで、法的な主張を適切に整理し、依頼者にとって有利な結果を導く可能性が高まります。
一方、司法書士や行政書士は、これらの調停や審判の代理を行うことはできません。司法書士は裁判所に提出する書類の作成はできますが、代理人として調停や審判に参加することは認められていません。そのため、調停や審判の手続きを進める場合には、弁護士に依頼する必要があります。
(3)遺産に関する訴訟代理
相続に関する争いがさらに深刻化し、裁判に発展する場合もあります。例えば、「遺言書の有効性を巡る争い」、「特定の相続人による遺産の使い込みの問題」、「特別受益や寄与分を争う訴訟」などが挙げられます。
こうした相続に関する裁判においては、弁護士が依頼者の代理人として訴訟手続きを行うことができます。裁判の場では、法律に基づいた主張や証拠の提出が求められるため、専門的な知識を持つ弁護士が対応することで、依頼者の利益を最大限に守ることが可能になります。
司法書士は「簡易裁判所における140万円以下の訴訟」については代理が可能ですが、相続案件ではこの範囲を超えるものが多いため、基本的には弁護士が対応する必要があります。

2.弁護士でなくてもできる相続関連業務
相続に関する業務の中には、弁護士でなくても対応できるものもあります。例えば、以下のような業務は、他の専門家が担当できます。
(1)遺言書の作成
遺言書の作成自体は弁護士でなくても可能です。公正証書遺言であれば公証役場で公証人が作成し、自筆証書遺言であれば自分で作成することもできます。司法書士や行政書士も、遺言書の作成をサポートできますが、相続人間で争いが予想される場合は、弁護士が関与して遺言内容を慎重に検討する方が望ましいでしょう。
(2)相続税の申告
相続税の申告は税理士が対応する業務です。遺産総額が基礎控除額を超える場合、相続税の申告が必要になりますが、税理士に依頼すれば、適正な申告と節税対策を行うことができます。弁護士は税務の専門家ではないため、この業務には関与しません。
(3)相続登記
相続による不動産の名義変更(相続登記)は、司法書士が担当する業務です。2024年から相続登記の義務化が始まり、放置すると過料が科される可能性があるため、相続登記の手続きは速やかに進める必要があります。
(4)遺産整理業務
相続財産の管理や分配の手続きをサポートする「遺産整理業務」は、司法書士や行政書士でも対応可能です。遺産の名義変更や預貯金の解約などをスムーズに進めるための手続きを代行できます。ただし、遺産分割に争いがある場合は、弁護士の関与が必要になります。

3.まとめ
相続に関する手続きは多岐にわたり、弁護士でなければ対応できない業務と、他の専門家でも対応できる業務が存在します。
弁護士でなければ対応できない業務としては、相続人間の代理交渉、遺産分割調停・審判の代理、遺産に関する訴訟代理が挙げられます。これらは法的な専門知識と交渉力が求められるため、相続問題が争いに発展した場合には弁護士に依頼することが重要です。
一方、遺言書の作成、相続税の申告、相続登記、遺産整理業務などは、司法書士や税理士、行政書士でも対応可能です。
相続の状況に応じて適切な専門家を選ぶことで、スムーズな手続きを進めることができます。
【弁護士の一言】
弁護士・税理士・司法書士・行政書士と、各種士業ごとの対応分野や対応できる業務についてお話しさせていただきました。世の中には、対応できる業務範囲を超えて業務を行い、かえってこじらせたことで、弁護士が介入せざるを得なくなったという事案も多いです。
弁護士は、訴訟や交渉代理をはじめ紛争業務については独占的な職権があり、最終的に裁判所を利用して責任をもって紛争を解決するというのが一番の特徴です。
紛争性について懸念がある場合には、無理に進めず、少なくとも一度は弁護士にも相談してみてください。対応方法を検討しておくほうがよいと思います。