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【横浜の弁護士が解説】夫が亡くなったときの相続放棄|妻と子が負債を背負わないための対策とは?

夫の死後に始まる「相続の現実」

 横浜市内で暮らす主婦のAさん。ある日、夫が突然の病気で亡くなりました。深い悲しみの中、通帳を整理していたところ、見慣れない「借入明細」が…。実は、夫は事業の資金繰りのため、数百万円の借入をしていたのです。
 このように、「夫の死後に負債の存在を知る」というケースは決して珍しくありません。相続とは、財産だけでなく借金も含めて引き継ぐものです。

 今回は、夫が亡くなり、相続人が妻と子のみとなる場合における相続放棄の基礎知識・手続き・注意点を、横浜の弁護士目線で詳しく解説いたします。

相続放棄とは? ~相続人が責任を回避する手段~

 民法第938条に基づき、相続人は「自己のために相続開始があったことを知った日から3か月以内」に家庭裁判所に相続放棄の申述を行うことができます。これにより、最初から相続人でなかったことになるという効果が生じます。

 たとえば、亡くなった夫に多額の借金があった場合でも、妻や子が相続放棄をすることで、その借金の返済義務を免れることができます。

よくある事例|夫の死後、妻と子が直面する相続リスク

ケース①:知らぬ間に連帯保証人になっていた

 被相続人である夫が、生前に知人の保証人になっていた場合、その保証債務も相続対象となります。相続人が放棄しない限り、請求が及ぶ可能性があります。

ケース②:個人事業主、法人の債務が残っていた

 夫が自営業を営んでいた場合、銀行からの借入金や未払いの税金・仕入代金などが、相続財産に含まれます。明らかに債務超過ならば相続放棄一択と判断できるのですが、個人事業主、法人経営等を行っていると、どの程度の債務があるのかどうかをジャッジすること自体が非常に難しいようなケースもあります。

ケース③:マイナスよりプラスが多いと思っていたが…

 「マンションがあるから安心」と思っていたら、住宅ローンが残っており、結果的に不動産の価値より借金のほうが多かったという事例もあります。

相続放棄の流れ(横浜の場合)

 横浜市内にお住まいの場合、相続放棄の申述先は【横浜家庭裁判所】となります(※被相続人の最後の住所地が横浜市の場合)。

 1.必要書類の準備

・ 相続放棄申述書(裁判所所定の様式)
・ 被相続人の死亡が記載された戸籍(除籍・改製原戸籍含む)
・ 申述人(妻または子)の戸籍謄本
・ 住民票や申述人の本人確認書類

2.家庭裁判所へ提出

 横浜家庭裁判所に郵送または持参により申述書を提出します。

3.照会書への回答

 事情によっては、裁判所から「照会書」が届く場合があります。これは放棄の意思や背景を確認する書類で、正確に記載・返送する必要があります。

4.受理通知書の取得

 審査の結果、放棄が認められると「相続放棄申述受理通知書」が届きます。

妻・子が相続放棄をした場合、相続権はどうなる?

 たとえば、妻と子(長男・次男の2名)が全員放棄した場合、相続権は次順位の相続人(夫の両親、または兄弟姉妹)に移ります(民法第887条~第889条)。

 特に注意したいのは、兄弟姉妹が高齢または認知症であったり、連絡が取れない場合。相続が“連鎖的に”発生し、放棄しない限り債務が移転してしまう恐れがあります。

相続放棄にまつわる3つの誤解

誤解①:「放棄します」と言えばOK?

 実際には、家庭裁判所への正式な手続きが必要です。親族間の口約束や遺産分割協議書に「相続しない」と書いただけでは、法的には放棄になりません。

誤解②:プラスの財産だけもらって借金だけ放棄できる?

 一部だけを引き継ぐことはできません。相続は「すべてを受け継ぐ(単純承認)」「すべてを放棄する(相続放棄)」のどちらかが原則です。「限定承認」という「プラスが残ったら、相続する」という方法もあるのですが、手続きが非常に煩雑です。また、相続放棄は相続人各自で判断できるのですが、「限定承認」は相続人全員で行わないといけない点も、相続人の意向をまとめるのも非常に大変で、私の経験上はあまり見ない方法だといえます。

誤解③:とりあえず口座を使ってから考えよう?

 故人の通帳から預金を引き出したり、車を売却したりすると、「相続を承認した」とみなされ、放棄が認められない可能性があります。

弁護士に依頼するメリット

財産調査のサポート

 「本当に借金があるのか?」「不動産は価値があるのか?」など、放棄すべきか迷うときには、弁護士が戸籍、債務、登記情報などを調査し、適切な判断をサポートします。

手続きの迅速化と正確性

 放棄には3か月という「熟慮期間」があるため、スピードと正確さが求められます。弁護士が申述書類を代理作成し、家庭裁判所とのやり取りも支援します。

債権者・親族間のトラブル対応

 相続放棄をしても、債権者や親族からの問い合わせが続く場合があります。こうした対応も、弁護士が「代理人」として行うことで、精神的負担を軽減できます。

大切なのは「早めの対応」と「正確な判断」

 相続放棄は、期限と手続きが命です。「よく分からないから放っておく」ことが、将来の借金トラブルにつながることもあります。
 横浜市内で相続放棄を検討されている方は、家庭裁判所への申述前に一度、弁護士に相談されることを強くおすすめします。

【弁護士の一言】

 記事内で述べたように、被相続人が保証人になっており、その債務に気づけなかったという問題もありますし、他方で、個人事業主・法人経営者の場合、被相続人の借金をその配偶者や子等の法定相続人が連帯保証しているようなケースもあります。この場合、相続放棄で免責されるのは被相続人自身の債務なので、配偶者や子等の法定相続人が保証債務を負っている場合には、相続放棄でも免責されない債務を負うようなケースがあります。弊所の対応した事案でも、相続放棄したものの、奥様名義の連帯保証債務が残存しており、残念ながら、破産手続を行わざるを得なかったという事案もありました。

 相続放棄は、一般的にはご自身でも行えるほど、比較的容易な手続ではあるのですが、特に法人経営、個人事業主等が絡む相続放棄では、弁護士がサポートしたうえで進行していったほうがよい案件も多いといえるでしょう。

【監修:弁護士法人山村法律事務所】

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