「親が住んでいた田舎の実家、どうするべきか――」
相続のご相談でよくあるのが、「実家を相続したものの使い道がない」「遠方で管理ができない」「売却するか悩んでいる」というお悩みです。この記事では、不動産相続に強い弁護士の視点から、田舎の実家を相続・売却する際の判断ポイントを解説します。
1. まず確認すべきは「実家に住む人がいるかどうか」

田舎の実家をどうするかを考える上で、まず最初に確認すべきは、「相続人の中に住みたい人がいるかどうか」です。
例えば、
- 親と同居していた子どもがそのまま住み続けたい
- 近隣に住んでいて、生活圏として使いたい
といった希望がある場合は、「相続してそのまま住む」という選択肢が現実味を帯びてきます。一方、誰も住む予定がないのであれば、維持・管理の負担を誰が担うのかを冷静に検討する必要があります。不動産は持っているだけで「管理責任」が発生し、空き家であっても思わぬリスクがあるからです。
2. 誰も住まない田舎の実家は「売却」が合理的?

相続人全員が都会に住んでいて、実家に戻る予定もない。そんなケースでは、実家を「空き家」のままにしておくリスクが高まります。
所有するだけで発生する「固定資産税」や維持費
使っていなくても、不動産には固定資産税がかかります。さらに、老朽化すれば草木の手入れ、外壁や屋根の補修、水回りの確認など、定期的な管理が必要になります。
管理を怠ると「損害賠償責任」が発生することも
たとえば、空き家から屋根の瓦が飛び、通行人にケガをさせた場合――。所有者には「土地建物の工作物責任」(民法第717条)として賠償責任が生じる可能性があります。また、相続放棄をしていても、「管理義務」だけは残ることがある点にも注意が必要です(民法第940条2項)。
売却時に苦労する「測量・境界確定」
実家を売ろうとすると、境界確定測量が必要になることがあります。その際、近隣住民との立会いが必要ですが、長年空き家で近隣との関係が薄いと、所在不明・連絡不通などの問題に直面することも少なくありません。結論としては、「誰も住まない田舎の実家」は、早期に売却を検討する方が、将来的なリスクや費用を回避できる可能性が高いのです。
3. 実家を「貸す」という選択肢はアリか?

「思い出の詰まった実家を手放したくない」「とりあえず賃貸に出して収益化したい」という相談もよくあります。しかし、老朽化した実家の賃貸運用には慎重な判断が必要です。
修繕トラブルが多発するリスク
築年数が古い戸建やマンションは、水回りの劣化や漏水トラブルが起きやすく、突発的な修繕費が発生します。数年分の家賃収入が一気に吹き飛ぶことも珍しくありません。網戸の破れ、虫の発生、設備の不具合など、細かいトラブルが発生すれば、対応に時間も費用もかかります。
入居者が「売却や建て替え」の妨げになることも
いったん賃貸に出すと、いざ「売却したい」「建て替えたい」と思っても、入居者との契約関係が障害となる場合があります。立ち退き交渉やトラブルに発展するリスクを見込んでおく必要があります。
サブリースでも万能ではない
一部の業者では、家賃保証付きの「サブリース」もありますが、リフォーム費用を差し引かれたり、家賃が相場より低かったりするケースも。さらに、サブリース契約中は自由に売却ができないなど、柔軟性が制限される点にも注意が必要です。
4. 相続か売却か…判断の軸は「感情」と「経済」のバランス

弁護士として数多くの不動産相続を見てきた立場から言えば、田舎の実家については、「感情」と「経済」のバランスをどう取るかがカギです。
たしかに、実家には思い出や家族の歴史が詰まっており、簡単に手放せない気持ちはよく分かります。私自身、自分の実家の処分について考えるとき、非常に迷うだろうと感じます。
しかし、誰も住まない・管理できない物件を所有し続けることは、将来的なリスクやコストを伴います。売却によって得た資金を他の投資や生活設計に活かすという選択肢も、決して後ろ向きなものではありません。
5. 実家の処分に悩んだら、まずは専門家に相談を

「実家の相続や売却、何から手をつければいいか分からない…」
そんなときは、弁護士や不動産の専門家に相談することをおすすめします。相続登記の手続き、遺産分割協議、空き家管理、売却時の法的リスクなど、事前に把握しておくことでトラブルを未然に防ぐことができます。
特に近年では「空き家問題」が社会的にも注目されており、自治体の補助制度や譲渡所得の特例なども活用できる場合があります。
まとめ:田舎の実家をどうするかは「現実的な視点」で考える
- 相続人に住む意思がなければ、早期売却が望ましい
- 管理責任や修繕リスクを冷静に見積もる
- 感情だけでなく経済合理性も大切にする
- 迷ったときは、弁護士などの専門家に早めに相談を
田舎の実家をどうするかは、人生の大きな分岐点です。将来の負担やトラブルを減らすためにも、早めに情報を集めて、納得のいく判断をしていきましょう。
【弁護士の一言】
実家の不動産問題は、経済的合理性と心情面の兼ね合いが必要でしたが、近年「防犯的要素」も含めて検討する必要がでてきたなと感じます。
実家に住む親の世代が存命していたとしても、身体が悪く一人で住むには不便という側面もありますし、広い実家だからこそ、物音に気付きづらい、空き巣などに狙われやすいなど、防犯的な懸念もでてきました。「先祖代々の土地」という心情面もあるものの、利便性・防犯面からは共同住宅のほうが、住みやすいという側面もでてきたのかもしれません。
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