相続が発生すると、遺産をどのように分けるかを決める「遺産分割協議」が行われます。しかし、相続人同士の意見が合わない場合、話し合いが難航することがあります。こうした状況で、弁護士が代理人として交渉を行うことで、円滑な遺産分割を実現することができます。
遺産分割における弁護士の交渉代理の役割や必要性について、詳しく解説します。
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1.遺産分割におけるトラブルの典型例
遺産分割協議では、相続人同士で話し合い、遺産を公平に分けることが求められます。しかし、次のような要因でトラブルが発生することが少なくありません。
（1）相続人間の意見の対立
相続人の間で「誰がどの財産を取得するか」、「分割方法はどうするか」といった点で意見が分かれることがあります。
- 兄弟姉妹で「自分が親の介護をしていたから多めにもらうべきだ」と主張する
- ある相続人が「先に生前贈与を受けていたため、その分を考慮して遺産を分けるべきだ」と言う
- 共有財産を売却して分配したい相続人と、現物のまま相続したい相続人で意見が対立する
（2）特定の相続人による財産の使い込み
相続が発生する前に、特定の相続人が被相続人の預貯金を勝手に引き出していた場合、それをどのように清算するかが問題となります。
- 「兄が亡くなる前に父の口座から多額の引き出しをしていたが、説明がない」
- 「長男が親の財産管理をしていたが、明細を開示しない」
（3）相続財産の評価をめぐる争い
相続財産の価値をどのように評価するかによって、分割方法が大きく変わるため、争いが生じることがあります。
- 不動産の評価額について相続人同士で認識が異なる
- 同じ遺産でも、売却して分けるのか、そのまま誰かが取得するのかで価値の評価が変わる
2. 弁護士の交渉代理の役割
弁護士が遺産分割の交渉代理人として果たす役割には、以下のようなものがあります。
（1）法的知識を活かした適切な主張の整理
弁護士は相続法の専門知識を持っており、依頼者にとって適正な遺産分割が実現できるよう、主張を整理します。
このような問題が生じた場合、当事者同士の話し合いだけでは解決が難しくなります。そこで、弁護士が代理人として交渉に介入することで、円満な解決を図ることができます。
- 特別受益（生前贈与や援助を受けた場合の調整）
- 寄与分（介護や経済的援助をした相続人への考慮）
- 共有財産の分割方法（換価分割、現物分割、代償分割など）
法的根拠に基づいた主張を整理し、他の相続人との交渉を進めることができます。
（2）感情的な対立を防ぐ
遺産分割の話し合いは、相続人同士の感情的な対立を引き起こしやすいものです。弁護士が間に入ることで、冷静かつ合理的な交渉を行うことが可能になります。
- 当事者同士が直接やり取りをしないことで、不必要な感情的衝突を避けられる
- 客観的な第三者として、建設的な解決策を提示できる
（3）証拠収集と適切な交渉
遺産分割においては、預貯金の使い込みや不動産の評価額など、証拠が必要になることがあります。弁護士は、金融機関や公的機関からの資料収集を行い、交渉に活用します。
- 預貯金の取引履歴を取り寄せ、不正な引き出しの有無を確認
- 不動産鑑定士と連携し、適正な価格評価を行う
- 生前贈与の証拠をもとに、特別受益として主張
証拠に基づいた交渉を行うことで、公平な遺産分割の実現を目指します。
（4）調停や裁判への対応
交渉で解決しない場合、家庭裁判所で「遺産分割調停」を申し立てることになります。弁護士は、この調停手続きでも代理人として依頼者をサポートします。
- 必要な書類の作成や証拠の提出をサポート
- 調停委員への適切な説明を行い、依頼者の主張を整理
- 調停が成立しない場合は、遺産分割審判や訴訟への対応を準備
弁護士がいることで、調停や裁判でも適切な対応が可能になります。
《外部リンク▷神奈川県弁護士会HP 遺言・相続分野に関する弁護士と他士業との違い》
https://www.kanaben.or.jp/profile/lawyer/lawyer06/index.html
3.弁護士に交渉代理を依頼すべきケース
すべての相続において弁護士が必要なわけではありませんが、以下のような場合は弁護士への依頼を検討すべきです
- 相続人同士の話し合いがまとまらない
- 一部の相続人が財産を独占しようとしている
- 使い込みや不正な生前贈与が疑われる
- 相続財産に不動産が含まれ、評価や分割が難しい
- 相続人間の関係が悪化し、直接交渉が困難
こうしたケースでは、弁護士のサポートを受けることで、公平な遺産分割を実現することができます。
4.まとめ
遺産分割の話し合いが円滑に進まない場合、弁護士が交渉代理人として介入することで、適切な法的主張の整理、感情的な対立の回避、証拠に基づいた交渉などが可能になります。特に、相続人間で対立が深刻化している場合や、使い込みや不正が疑われる場合には、弁護士のサポートが有効です。
遺産分割でトラブルが生じた際には、早めに弁護士へ相談することが重要です。
【弁護士の一言】
弁護士の役割や、相続トラブルにおける必要性をお話しするために、弁護士の「交渉代理」という切り口でお話しさせていただきました。もっとも、現実的には「交渉代理」レベルで決着することは少なく、弊所では基本的に「調停・審判」による解決方法を選択することをお願いしております。
言い換えますと、弁護士が入ることで、証拠の精査や法的主張の確度が上がるのですが、双方弁護士が介入すると、「審判のいない試合をやっているようなもの」になってしまい、結局、「審判としての裁判所がいないと解決しない」ということが多いからです。
近年は、相続トラブルの増加と内容の複雑化が進み、裁判所での解決事案が非常に多くなっております。ご家族内のことを裁判所で審理するのは恥だと思われる方もいるのですが、「相続トラブルを終わらせる」ために、必要なアクションをしっかり選択していきましょう。
【監修：弁護士法人山村法律事務所】
