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相続して借金を負いたくない!

【1】
人が死亡した場合、「相続」(民法896条)という効果が発生します。
相続人という言葉は聞き覚えがあると思いますが、相続される人(ここでいう死亡した人)を被相続人といいます。被相続人に財産がある場合、相続人はその財産が欲しいと思うのが通常であり、特に問題がなければ、相続人は相続により被相続人の財産を取得するはずです。しかし、例外的に相続人は相続したく無いと思うことがあります。それは、被相続人の債務が資産より多い場合、つまり、借金がある場合です。
【2】
財産のうち、預貯金や債券、固定資産など、金銭的価値のある財産のことを積極財産といい、これに対して借金等の負債を消極財産といいます。
【3】
相続があった場合、「財産」が相続されるため、積極財産と消極財産の両方ともを相続してしまいます。そこで、相続をしない方法、相続放棄の仕組みと手続を解説していきます。

【具体例を踏まえて検討してみよう】
【1】
例えば、被相続人は死亡時に不動産を持っていたり、貯金を持っていたとします。被相続人が生前住んでいた建物とその土地が自分のものだった場合で、その土地と建物の評価額が仮に5000万円だったとしましょう。さらに、被相続人は2000万円の貯金を有していたとします。この場合、相続税等を抜きにして考えると被相続人には7000万円の資産があることになります。これらは積極財産です。しかし、被相続人には生前に友人から1億円の借金があった場合を考えてみてください。これは消極財産です。
【2】
相続は相続人の意思に関係なく、当然に生じるというのが法律の建前です。そのため、相続をしてしまうと、積極財産を全部売却して現金に換金したとしても、相続人は3000万円の負債を抱えることになってしまいます。

【相続放棄を利用しよう!】
【1】
このような場合、相続人は「それなら相続したく無い!」と考えるはずです。このような場合には相続放棄(民法938条)という制度を利用することで、借金を肩代わりしてしまう状況を回避できます。
【2】
相続放棄とは、相続人が、被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことをいいます。
人が死亡した場合には自動的に相続が開始されることになりますが、相続人が複数いる場合には、相続した財産は遺産分割(民法907条1項)等により、変動することがありえます。このような場合、相続財産で、誰がどれくらい取得するかは不確定なものといえます。そのため、「自分が少なからず貰えるはずの財産はいらないから、その代わりにめんどうくさい相続争いから抜けさせてくれ」という意思表示することができます。この意思表示は相続争いがめんどうくさいという理由だけでなく、事例のように被相続人の債務が債権の額を超えている場合に相続を回避することにも利用できます。
このように、「相続しません」という意思表示を家庭裁判所に申述すれば債務を負ってしまうことを回避できます。
【3】
相続放棄は、遺産分割の話し合いをする必要がなくなる上、相続により被相続人の借金を肩代わりしなくて済むため、非常にメリットのある法律行為といえます。しかし、デメリットがないわけではありません。「財産の全てをいらない」という意思表示であることから、上記事例の場合には被相続人の有していた不動産や貯金も貰えなくなってしまいます。また、一度でも相続放棄をしてしまえば、後からやっぱり欲しいから相続を撤回するということは出来ません(民法919条1項)
【4】
注意すべき点としては、相続放棄が出来るのは相続の開始を知ったときから3ヶ月以内である(民法915条1項)という点でしょう。また、被相続人の貯金を使ってしまったような場合には、単純承認(民法921条1号)といい、「相続します」という意思表示をしてしまったことと同じになることにも注意しなければいけません。これらの場合には、仮に債務が多くても相続しなければならなくなってしまいます。

【相続で困った場合には相談を!】
ここでは、相続放棄の仕組みについて解説しました。相続放棄を含め相続関係の手続きは複雑で一般の人にとっては分かりにくいものとなっています。お困りの際は、相続関係に強い弁護士に相談する等専門家を頼るべきといえるでしょう。

【弁護士のコメント】
典型的に借金ばかりの方の相続を除いても、本記事のように相続放棄を検討する場面としては、①経営者の方で事業の借金が多額にある、②収益物件を融資で購入しており借金が多額にある、とプラスの財産があるものの、借金も多額にあるようなケースが非常に多いです。また、単純に、関係性が薄いため、「面倒くささ」から離脱する際にも相続放棄することも多いです。実家と離れた場所に暮らしているケースが多い印象です。
相続放棄自体は、手続が難しいというよりも、その前提として、相続財産全体をみて、「相続放棄すべき状況なのか、否か?」という状況判断が一番難しいです。期間制限もあるため、複雑な状況でしたら、早期に弁護士にご相談にいくとよいでしょう。

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