不動産売買で買主が行方不明になってしまった
〈事例:買主側が手付金を支払っているのに行方不明?〉
親が住んでいた一戸建て物件を中古物件として売り出したAさん。取引も円滑に進み、手付金の支払いも受けて、
引き渡しの準備を進めていたところ、不動産会社から次のような連絡が来ました。
・買主が手付金を支払ったまま、連絡がとれなくなった
・配偶者や家族はいない
・親族も心当たりはない、とのこと
手付金まで支払っているのに、何らかの事情で連絡が取れず、行方が分からなくなってしまった買主。
このようなケースでは、どのような対応が取れるのでしょうか。
催告手続きをしなければ解除はできない?
売主は困り果ててしまい、不動産会社に相談してみますが、催促しなければ契約の解除ができず、「取引の相手が
いない以上、手の打ちようがない」と、言われてしまいました。
しかし、何か方法はないのでしょうか?
債務不履行解除
この場合、買主は手付金を支払うだけではなく、取引が終了するまで、各手続きを円滑に進める義務を負ってい
る、と考えられます。
この義務を誠実に履行していないと認められれば、履行遅滞による債務不履行(民法541条、民法542条)による契
約解除が可能であると考えられます。
債務不履行解除の要件は、債務者の帰責事由によって、履行遅滞が生じていることが要件となります。この点につ
いては、一方的に行方をくらました買主に帰責事由がある可能性が高いと言えます。
そして、債務不履行解除のもう一つの要件は、相当期間を定めて履行の催促をして、その期間内に履行がないこと
です。そしてこの催告は、公示による方法で、相手方に連絡が取れなくても契約解除が可能だと考えられます。
公示による通達
公示とは簡易裁判所に申し立てすることで、解除の意思表示の内容を簡易裁判所の掲示場に掲載して、またその内
容を官報に少なくとも1回掲載します。そして、公示の意思表示は最後に官報に掲載した日、又は、その掲載に代わ
る掲示を始めた日から2週間経過した時に相手方に、到達したとみなされます。
但し、このケースでは買い付け証明の段階、契約締結前であれば契約が成立しているとはいえないため、契約解除
の問題にならず、問題なく新しい契約に移ることが可能であると考えられます。
参考条文
民法98条
1.意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法に
よってすることができる。
2.前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示
し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。
ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準
する施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
3.公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した
時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないこと
について過失があったときは、到達の効力を生じない。
4.公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることがで
きない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。
5.裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない。
手付金の支払い後に行方不明、というのは稀なケースですが、買付証明後、契約前の段階などで、「やっぱり売
らない」など、トラブルになりやすいのが、不動産売買の常です。
①買付証明の段階、契約前は、頓挫しても、お互い何も言えない=白紙解約可能、
②契約後・手付金移動後は、手付金での解約が可能、というのが、原則論です。
今回のように、解約のトラブルになりそうなら、会社側も、購入者側も、法的にどのような対応が可能なのか、一
度、専門家に相談の上、対応されるほうが良いかと思います。
【執筆 松本和博 (宅地建物取引士試験合格)】
【監修 弁護士 山村暢彦】