都内・横浜で『不動産・相続』でお困りなら山村法律事務所へ
  1. トップ
  2. コラム
  3. 裁判例ノック11~15本目 原状回復

裁判例ノック11~15本目 原状回復

弊所 弁護士・寺田の裁判例ノックですっ‼
皆さまに役立つ過去の裁判例を、ご紹介していきますっ‼

裁判例ノック11本目 原状回復

春日井簡裁H9.6.5
【概要】
 賃借人の清掃が不十分かつクロスの一部分の修復を認めたのみでは足りないとして、張替修復分の費用負担を賃借人に認めたものです。
賃貸人不利な裁判例の紹介が続きましたが、今回は逆ですね!

【結論】
 部屋の一つのクロスについて、賃借人の行為により毀損した部分のみを修復しても全体として不十分であり、全体のクロスの張替えを賃借人の負担としました。その他は通常の使用による損耗にあたり、賃借人の負担は認められませんでした。賃貸人が清掃費用を支払ったのは賃借人の不十分さに起因するとされました。

 通常の使用による損耗が、賃借人負担にならないのは変わるところがないですね。
しかし、賃借人の行為による一部のクロス毀損によって、全体の張替え分が認められたり、清掃が不十分であった場合に清掃費用を賃借人負担にする等、賃貸人にとって有利な裁判例となりました。

【文責:弁護士 寺田 健郎】

裁判例ノック12本目 原状回復

東京簡裁H11.3.15
【概要】
 更新時に原状回復条項が追加された特約は、賃借人の自由な意思に基づく承諾と認められないため、無効であるとした事例です。
結果としては、賃借が勝った裁判ではありますが、なにやら興味深いことに言及しているような…?

【結論】
 賃借人が負う義務は、通常の使用による損耗はその範囲外であるとしたうえで、特約により全費用を賃借人負担とすることも契約時の諸般の事情を考慮して疑問のないときは、賃借人に義務を負わせることもあるとしました。本件では、説明がされていなかったことや、更新料支払等で義務はないと判断されました。

 契約締結の諸般の事情を総合的に考慮すれば、賃借人に特約で原状回復義務を負担させることもあるという判断は、今までに見られないものですね。
しかし、承諾以外にも、更新料の支払いも要素に挙がっているので、容易に認められるハードルではないと考えられます。すべてはバランスでしょうか。

【文責:弁護士 寺田 健郎】

裁判例ノック13本目 原状回復

仙台簡裁H12.3.2
【概要】
 特約に規定のないクリーニング費用等は、賃借人は説明も受けておらず賃借人の負担は認められないとした事例です。
賃貸人側の負け事案ではあるのですが、賃貸人側にとって、いろいろ含みのある裁判例になっています。

【結論】
 特約条項にクリーニング費用等の規定はなく、通常の使用による損耗を賃借人の負担とすることは、賃借人が義務を認識し、義務負担の意思表示をすることが必要であるとしています。本件ではそれらの事情はなく、賃借人が通常の使用による損耗を超える汚損をした証拠もないため、賃借人の主張が認められました。

 裁判例ノック10本目の必要性・合理性が抜けたバージョンといえるでしょうか。賃借人が合意して支払いを認めていたりすれば、原状回復義務の範囲は広がる可能性が高いため、契約前の事前の協議で、その範囲を広げる話し合いをする価値はありそうです。

【文責:弁護士 寺田 健郎】

裁判例ノック14本目 原状回復

大阪高判H12.8.22
【概要】
 通常損耗を賃借人負担とする特約が否定された裁判例…といえば、何ら変哲のない裁判例のように思います。
しかし、大阪高裁での判断であることから、裁判慣行上強い影響力を持つ裁判例であるといえそうです。

【結論】
 特約がない場合、経年劣化や通常損耗は賃借人の負担とすることはできないとの一般論の後、通常損耗を賃借人の負担とするには、条項に明確に定め賃借人の承諾を得る必要があるとしました。本件の特約は、一般的な原状回復義務を規定したものとしか読めず、賃借人に負担させるのは相当でないと判断されました。

 簡易裁判所からの判断なので、高等裁判所が、実質三審制の最後となるのが本事案です。この裁判例はとても重いものです。
とはいえ、内容自体はそこまで衝撃的なものではないですし、しっかりと明記して承諾を得た特約であれば…とも考えてしまいますね。

【文責:弁護士 寺田 健郎】

裁判例ノック15本目 原状回復

東京地裁H12.12.18
【概要】
 通常損耗分を含めた原状回復義務の特約が有効とされた裁判例であり、賃貸人有利の判決です。
流れが全く異なる裁判例であるため、従来との整合性も気になるところです!

【結論】
 住宅金融公庫法や宅建業法違反は否定しました。消費者保護の観点も大事だが、私的自治も重要であり、本件では、特約内容を限定し、私的自治を覆滅させてでも、修正する不合理性・不平等性はなく、公序良俗違反はないとしました。そして、特約文言は、通常損耗をも含むと考えるのが自然であるため、有効とされました。

 消費者よりではなく、賃貸人にかなり有利な判決です。赤色不動文字で特約が書かれていたり、礼金なしの物件であったりと、様々な事情が考慮されている結果であることは間違いなさそうです。
とはいえ、通常損耗を賃借人負担とする余地があるのは朗報ですね!

【文責:弁護士 寺田 健郎】

上部へスクロール