1.大家業を営む上での心構え
アパート経営において、基本的な「 大家と借主が、平等ではない 」という部分を、裁判所の考え方を踏まえてご説明したいと思います。
「 貸したら、借りたもののほうが強い 」、「 貸したら、返ってこない 」。このように言われる不動産賃貸。
ただ、法律も、一方を依怙贔屓しているわけではありません。法律ではどのような考えが基礎にあり、その結果、なぜ「 不平等 」のようになっているのか。大家業を営む上で、心構えとして、頭の片隅にいれておくべきかもしれません。
2.もしも、大家と借主が平等だったなら
マンション1室の賃貸借契約をイメージしてみましょう。(例:賃料月10万円、期間2年間)
本来、賃貸借契約というのは、期間がくれば借りているものを返す契約です。2年の期間がきたら部屋を借りている人は、契約を更新しない限り、部屋から退去して返さなければならない。これが本来の賃貸借契約です。同じように、たまたまクレジットカードの引き落としなどの支払いが重なり、金融口座の残高が賃料額を下回っていて、賃料の引き落としができなかったとします。そうすると、「 賃料不払い 」という債務の不履行ですから、一般論としては、賃貸借契約を解除されてしまってもおかしくありません。これが、本来的な帰結です。
ただ、現実的にこのようなことで、契約更新ができない、一度の不払いで退去させられてしまうとなると、借りている人は、明日から住むところを失ってしまいます。オフィスについても同様です。その会社は、明日から事業を営む基盤を失ってしまいます。
法律は、このような事態が借主側にとって、酷だと考えるのです。そのために、大家と借主との契約は、単純な賃貸借契約ではなく、「 借地借家法 」という特別法により、借主側の立場が強くなるように修正をしています。また、賃貸借契約の違反があった場合にも、「 信頼関係破壊の法理 」という理屈によって、借主側の立場を強く修正しています。
3.「 借地借家法 」と「 信頼関係破壊の法理 」
借主側の立場を強く修正しているのか、具体的に見てみましょう。以下の条文が、建物賃貸借契約の更新の場面です。
(建物賃貸借契約の更新等 )
第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
簡単に言い換えると、「何も連絡していなければ、従前の契約と同一条件で契約内容を更新します」、という定めです。しかも、今度は「 期間は定めがないもの 」とされてしまいます。ある意味、無期限の契約になるようなものです。
「 それならば、放置せず、ちゃんと解約の連絡をすればいいんじゃないの?」と、当然の疑問が生じてきます。
( 解約による建物賃貸借の終了 )
第二十七条 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。
これを見て、「 ああ、ちゃんと行動すれば解約できるんだな」なんて、安心してはいけません。次の条文には、更に、こんな内容があります。
( 建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件 )
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
大家(賃貸人側)からの解約申し入れに関しては、更に条文でこのように「 正当の事由 」がある場合に限定されています。そして、この「 正当の事由 」は、賃借人有利に判断されます。
「 立退料 」なくして出ていってもらうことは、ほぼ不可能です。これが、借地借家法により賃借人有利に修正された現状の法制度です。
4.解決方法と対策法
借地借家法により賃借人有利な状況に対しては、根本的な解決方法はありません。「 賃貸事業 」を営む上で、そのような「 事業規制があるんだ」、「 大家が不利な状況でも、賃貸せざるを得ないんだ」という心構えをもって、経営せざるを得ません。
ただ、更新時の対策方法として、「 定期賃貸借契約 」という契約を知っておくことは重要です。
定期賃貸借契約とは、契約期間が満了したとき、法定更新されずに、部屋を返してもらう契約です。事実上は、更新しない権利を大家側が獲得しておき、問題がない入居者であれば、「 再契約 」によって、次の期間も貸すという運用がなされています。商業テナントであれば、定期賃貸借契約が利用されることは一般的です。老朽化物件を貸す際では、「3年後に建替え予定だから、その間だけ、 定期賃貸借契約で貸すよ」というふうに利用されます。
しかし、定期賃貸借契約があったとしても、実際に入居者が出ていかない場合には、裁判を起こして強制執行をする必要が出てきます。その手間とコストは、決して小さくなく、無視できません。とはいえ、一般的な賃貸借契約であれば、不良入居者であっても居座られ、他の入居者や物件に悪影響を与える可能性もありますから、定期賃貸借で契約を結んでおけば、いざというとき、裁判をやれば追い出せる、というのは心強いです。
大家業(=賃貸人側)を営む上で、裁判においては、賃借人側有利に判断される傾向が、非常に強いことを覚えておきましょう。そのため、大家さんとしては、事前の情報収集と、問題が起こったときには、早期に専門家へ相談するということを念頭に、リスクを抑えるアパート経営に努めましょう。