今回は特別受益の評価時期、特別受益に該当する可能性が高い事例、該当する可能性が低い事例のご紹介と、2019年の民法改正によって、新しく制定された特例を解説していきます。
前編で特別受益の概要を解説しておりますので、前編をご覧になってない方は前編からご覧いただければ幸いです。
特別受益の評価時期
特別受益の持戻し額は、相続開始の時点の価額で評価されます。そして、相続財産をもらっていた人の行為によって、その目的財産が無くなってしまったり、価格の増減があったときでも、相続開始の時においてなお、贈与時の現状のままであるものとみなされます。
全てが特別受益になるわけではない
ここまで読んでいただくと、「被相続人から生前に財産をもらっていると、全部、特別受益に該当しちゃうのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。ケース別にみていきましょう。
・金銭(結婚生活の資金)
相続人が結婚した際に、今後の結婚資金として金銭等を贈与するということはよくあることかと思います。この場合、金額が少額で被相続人の生前の資産及び生活状況に照らし、扶養の一部と認められる場合は、特別受益に該当しません。
・金銭(学費)
原則として、大学以上の教育が該当し、留学の費用も入ります。高等学校教育までは義務教育として、特別受益に該当しないのが通例です。しかし、大学教育も、被相続人の生前の資産収入、社会的地位及び生活状況に照らし、その程度の教育をするのが普通であるという場合は、扶養の範囲内として特別受益に該当する可能性は低くなります。
・動産、有価証券、金銭債権
通常の範囲を超える贈与の場合、原則として特別受益に該当されます。
・不動産の贈与
不動産の贈与は、借地権の設定を含め、原則として生計の資本としての贈与とされ、特別受益に該当する可能性が極めて高いです。
・生命保険金
生命保険金は原則として特別受益にはあたらないとされてきましたが、被相続人の生前の資産のほとんどを生命保険金とするような、到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて扱うとされた判例があるので、注意しましょう。
特別受益の持戻しを免除するという意思があった場合
特別受益の原因となる生前贈与や遺贈は、そのまま相続人の意思です。そのため、遺言等によって被相続人が持戻しを免除した場合は、その意思表示は、遺留分を侵害しない範囲で有効であるとされています。
持戻し免除の特例
ここまでは2019年の民法改正前の内容です。民法改正後、次の内容が追加されました。
「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」
今までは遺言等で持戻し免除の意思表示がない場合、不動産の贈与は特別受益に該当する可能性が高かったですが、この改正により婚姻期間が20年以上の夫婦間での不動産の遺贈又は贈与に関しては例外が生まれました。ただし、遺留分の規定もありますので、その点は注意が必要です。
≪弁護士の一言≫
特別受益は、双方感情的になりやすい論点の一つです。兄弟姉妹間で、不公平を感じるポイントになりやすい部分だからです。ただ、そもそも特別受益を示す証拠が残存していないケースも多く、法的に解決しづらい分野です。
また、相続制度では、「保険金」は相続財産と切り離され、受取人名義の固有の財産と考えるのが原則です。もっとも、これを利用すると、ほとんどの財産を保険金として特定の相続人に渡すことができてしまいます。そのため、保険への加入割合が大きすぎると、この特別受益によって是正が図られる場合があります。保険への加入は、適切な限度への加入が必要と言えるでしょう。
【監修:代表弁護士 山村 暢彦】