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「所有者不明土地管理制度」とは? ~令和5年(2023年)4月の民法改正~

従来の方法の問題点
「空き地・空き家」について裁判所を通して「中立的な代理人」を選任してもらい、その「中立的な代理人」との間で、以下のような流れで問題解決を進めていました。

 ① 境界確定測量の手続を行う
 ② 通行・掘削承諾をもらう
 ③ 土地の売買または時効取得の主張

●行方不明・所在不明な方が所有者の場合▶不在者財産管理人
●相続した全員が放棄をしている状況の場合▶相続財産管理人
●存在していた会社が解散している場合▶清算人
このような「中立的な代理人」を選任して、対処します。

時効取得など裁判を前提にする手続きの中で、被告が不在の場合には、「特別代理人」を選任して対処することが可能です。

まず、「特別代理人」制度から説明します。特別代理人制度は、「訴訟」手続きの中でしか利用できません。
土地を時効取得したい( ※取得時効に基づく移転登記請求訴訟 )や、清算した会社の抵当権を抹消したい( ※抵当権抹消登記請求訴訟 )など、訴訟を前提とする手続きでの利用が想定されているものです。

次に、「清算人」について説明します。
本来、隣地の境界確定測量に同席して欲しい、土地を任意に購入したいといった場合、「問題となっている、その対象土地のみ」を管理してくれる中立的な代理人がいればよいはずです。しかし、清算人・不在者財産管理人・相続財産管理人というのは、「対象土地のみ」だけの管理人として選任することが難しく、その「立場」全体財産を管理する管理人としての選任を行うことになります。

つまり、
●≪不在者財産管理人▶不在者の財産全て≫、
●≪相続財産管理人▶被相続人の財産全て≫、
●≪清算人▶清算された(又は放置された)法人の財産全て≫ を、
管理する必要が生じるのです。

本来なら「対象土地のみ」の管理業務をやってほしいのに、これまでは、その他の財産全体に対して管理人を選任しなければならなかったわけです。

これですと、主に2つの問題点が生じます。
1つ目は、管理人の業務範囲が広いと、土地だけの情報が欲しくても、その前に、財産全体額を把握してからでないと「対象土地」の処分に移れないので、結果が出るまでに時間がかかるということです。
2つ目は、コストの問題です。中立的な財産管理人の報酬は、申立人側が「予納金」として裁判所に支払う必要があり、この予納金額が、業務範囲が広ければ広いほど、高額になりやすいという傾向があります。

そのため、従来の制度では、「対象土地のみ」の権利を確定したくても、申立人側は、対象とする「不在者」・「人」の財産額全体にかかる手続きと重いコストを支払う必要が生じていました。

※ 理論上の従来の制度の問題点を指摘しましたが、清算人については、「スポット清算人」という制度運用があります。

これまでは制度上の問題から、やむをえず運用レベルで対処していたものが、今回、立法的に対処しようとメスが入れられたのが、改正法の「所有者不明土地管理制度」です。

所有者不明土地管理制度
改正法の「所有者不明土地管理制度」について、従来の制度と新しくなった制度を比較します。

 ① 新制度では「対象土地ごと」に「中立的な代理人」を選任できる
 ② その申立人になれる資格である「法律上の利害関係人」の範囲も広くなる
 ③ 理論上は申立時に必要となる「予納金」は低くなる可能性がある
 ④ 従来、管理人によって使える制度等が異なっていたが、統一的に「所有者不明土地管理制度」に、一本化できる可能性がある

従来の制度をより実用化しやすくなる改正という意味で、私は非常に好意的に受け止めています。

さらに従来の制度の問題点として、その「中立的な代理人」の判断の裁量が多く、申立人側からすると予測可能性が低い(希望どおりにしてもらえるかわからない)という懸念がありました。それが今回の改正では、裁判所の許可を取れば「売買等」も代理人を通じて行えるという条文ができました。そうすれば「売買等の許可」を取れる基準も明確になり、予測可能性が高まっていくのではということにも期待しています。

「問題あり土地」を正常化できれば、「負動産」を正常化できることにもなります。この制度はもっと周知されていくべきだと考えています。

【文責:代表弁護士 山村 暢彦】

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