「オーナーチェンジ物件を買ったけど、入居者に出て行ってもらえると思っていたのに…話が進まない」
「自己利用のために購入したいという買主がいるが、借主が退去してくれない」そんなご相談が、弁護士のもとに寄せられることが増えています。
特に近年は、相続や不動産投資の一環として、賃貸中の物件を売買する「オーナーチェンジ物件」が増えており、賃借人との関係をどう整理するかが大きな課題になります。一方で、不動産オーナーであっても、「立ち退いてもらう」ためには法的・実務的に高いハードルが存在することをご存知ない方も多いのが実情です。
本記事では、不動産売買や投資の現場で実際に寄せられた相談事例をもとに、「任意交渉」と「法的対応」の違い、そして立退料を巡る裁判所の考え方、さらにはオーナーチェンジ物件特有のリスクについて、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
「トラブルになる前にどう備えるか」「どう対応すれば損失を抑えられるか」を知りたい方にとって、実践的なヒントとなる内容です。
オーナーチェンジ物件でよくある「立ち退きニーズ」とその落とし穴
オーナーチェンジ物件とは、すでに賃借人が居住中の不動産を、そのまま新しい所有者に引き継ぐ形で売買される物件です。
投資家にとっては、購入直後から賃料収入が見込めるというメリットがありますが、一方で、買主の意向によっては「賃借人に出て行ってもらいたい」というニーズが発生することがあります。
こうした背景を理解したうえで、オーナーチェンジ物件を扱う際は、「立ち退き交渉」の難しさと現実的な対応策をしっかり検討しておくことが重要です。
立ち退き交渉は「任意」か「法的手続き」か〜成功の分岐点とは
立ち退き交渉を進める際、最初に検討すべきなのが「任意の合意により退去してもらうか」「法的手続により明渡しを求めるか」という方針の選択です。現実には、任意交渉が成立するかどうかが、トラブルの有無を左右する大きな分岐点になります。
任意交渉では、賃借人に納得して退去してもらうことが前提となるため、立退料や引越費用の提示が事実上の条件となることが多くあります。たとえば、高齢者が住む物件であれば「子の近くに引っ越したい」「今の住まいが広すぎる」といったニーズがあれば、金銭的インセンティブによって前向きな返答が得られる場合もあります。
一方で、法的手続に進む場合、裁判所は「借主の居住権益」を強く保護する傾向にあります。たとえ賃料不払いがあっても、即時の明渡しが認められるわけではなく、数ヶ月以上の不払い、あるいは用法違反(無断転貸・用途違反等)の存在が必要です。それでも、裁判では「退去による不利益」を考慮して、立退料の支払いを提案されることもあります。
このように、立ち退きを求めるには法的根拠と現実的配慮のバランスが必要であり、交渉と訴訟のいずれを選ぶにしても、戦略的な判断と丁寧な準備が不可欠です。
「収益不動産」の裏に潜むリスクと回避のヒント〜契約書で防げない問題も
オーナーチェンジ物件の魅力は、購入直後から賃料収入が得られる点にありますが、その裏には“見えないリスク”が潜んでいます。
特に注意すべきは、入居中のため物件内部を確認できないまま購入が進む点です。
過去には、入居者退去後に原状回復費が想定以上に膨らみ、収支計画が大きく狂った事例もありました。さらに、建物の構造自体に重大な問題が見つかったケースでは、修繕も訴訟も断念せざるを得なかったという声もあります。
また、賃借人の属性も重要なリスク要因です。アパートなど複数入居の物件では、全体の一部と捉えて警戒が緩みがちですが、迷惑行為や未払いを起こす賃借人が一人でもいれば、収益性や近隣環境に重大な悪影響を及ぼします。
特に戸建賃貸のように1対1の契約構造であれば、トラブル発生時の影響はより深刻です。
もちろん、売買契約書において「過去のトラブル歴がないこと」を売主に表明保証させることも可能ですが、それだけで万全とはいえません。保証人の契約が無効であったり、賃借人に支払い能力がない場合は、裁判で勝っても費用回収できない現実があります。
だからこそ、オーナーチェンジ物件では“表面利回り”だけでなく、“見えないリスク”を想定したうえでの価格交渉や、出口戦略を見据えた物件選定が求められます。契約書だけでは防げないトラブルを未然に避ける目利きが、投資成功のカギとなります。
【まとめ】
オーナーチェンジ物件の購入は、不動産投資の入り口として魅力的である一方、賃借人の存在によって自由な活用が制限されるという、見えにくいリスクを伴います。特に「立ち退き」を巡る問題は、任意交渉か法的手続かで難易度が大きく変わり、裁判所の判断も賃借人寄りになる傾向があるため、想像以上に解決が難航するケースもあります。
さらに、物件内部の状況を確認できないまま購入するという構造上の制約、そして賃借人の属性リスクなど、契約書ではカバーしきれない問題も少なくありません。こうしたトラブルを未然に防ぐためには、購入前の調査・交渉・価格設定において、慎重かつ戦略的な判断が求められます。
「買って終わり」ではなく、「誰が住んでいるか」「どのように使われているか」にも目を向け、不動産の法的・実務的なリスクを見抜いた上で、収益性と安定性を両立させる投資判断を行うことが重要です。立ち退きや賃借人との関係でお困りの際は、専門家への早めの相談が、将来のトラブルを防ぐ第一歩となります。
【弁護士の一言】
「簡単に立ち退かせることはできないよ。」と常々回答しているのですが、それでも度々あるのが、「立退きってできますか?」です。特に、オーナーチェンジを買って立ち退かせて自分で利用したいという相談も稀にありますが、基本的には難しいです。
また、投資家目線では、「オーナーチェンジ」はすぐさま賃料収入を得ることができますが、他方、潜在的なトラブルが潜んでいることもあり、要注意です。オーナーチェンジ物件の際には、表面的な利回りだけではなく、「レントロール」、「賃借人の属性」、「過去のトラブル歴」など、潜在的なトラブルを想定してしっかりと検討して購入するようにしましょう。
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