1.「所有者不明土地」
令和5年4月1日から施行された「所有者不明土地管理制度」の影響もあり、最近、「所有者不明土地」関連のご相談が増えました。この新制度でなければ解決できない事案というのは、実は少なく、「売却や建て替えは無理だと諦めていた」土地の解決策があることが知られた、ということが大きいのかと思います。
土地の名義を移転したり、境界確定したくとも、「相手がいない」類型を総括してご説明していきたいと思います。
《外部リンク》
【なくそう、所有者不明土地! 所有者不明土地の解消に向けて、 不動産に関するルールが大きく変わります!】政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202203/2.html
2.「所有者不明土地」の実例
(1)まず、どんな問題が現実にあるのか、具体例をみていきましょう。
①神奈川県内でアパートを建築しようとしたら、所有土地の中に、なぜか数㎡の他人名義が存在していた。
その名義を調べると、法人のようだが、今は解散しているようだ。
土地を買い取るか、時効取得を主張したいが、解散している会社なので、相手がいない。どうしよう?
②区分マンションを売却しようと不動産会社に相談にいったが、抵当権が付いていた。その抵当権は一般的な金融機関等ではなく、消費者金融だった。
調べたところ、その消費者金融は現在、廃業していた。どうしよう?
③横浜市内のアパートを売却しようとしたら、接道している私道の通行掘削承諾を取得してほしいと不動産会社に言われた。
私道の所有者は、登記簿の住所変更登記をしていなかったようで、見つからない。どうしよう?
(2)よくあるご相談例を挙げてみました。
①のように、他人名義の土地が混入していることは、ごく稀ではありますが、発生します。
たとえば、隣地と境界確定ができない場合に、薄く土地を切って、境界確定が取れない本当の隣地との間に、別の「新しい隣地」を生み出して、そこと境界確定を行う。これによって、確定測量済みの土地として売却する、という取引も、一定程度実務レベルではあったようです。その際、「薄く切った数㎡の新しい隣地」を、小規模なディベロッパーが保有したまま、そのディベロッパーが廃業してしまう、というような事態です。
なかには、その薄く切った土地によって、実は薄い土地が挟まっていて、「接道していない」なんて驚愕する土地も存在しました。強いて推測するならば、あえて未接道の土地にしておいて、買主が売却や建て替えをしようとしたときに、その「薄い土地」を高値で売るような、悪質な意図があったのかもしれません。未接道の再建築不可の土地では評価額が相当下がりますから、その所有者は高値でも、薄い土地を買う選択をせざるを得ない、という事態もあり得ます。
(3)②はアパート関係の大家さんからすると、なじみのない状況かもしれません。このような解散・廃業した会社の抵当権が付着している、というのも度々起きている状況です。
消費者金融系の事例が多いですが、大手企業の住宅ローン援助のような制度があり、その後、企業の事業再編があり、その抵当権名義の会社自体が存在しない、という事例もありました。その事例では、事業再編後数十年で、「清算人」という、解散した企業の代理権をもつ人物が生存していたので、何とか解決を図ることができました。しかし、ご高齢でしたので、万が一、死亡していると、裁判所利用の手続きが必要になっていた場面でした。
(4)大家業を営む方からすれば、圧倒的に出会うケースが多いのが、③の接道する私道の所有者が見つからない事例です。
私道は非常に厄介で、以下の事例が「あるある」です。
ⅰ)私道を共有、かつ多人数で所有していたとき、そのうちの何人かの所在が見つからない、
ⅱ)私道の所有者が死亡しており、戸籍が抹消されているため、相続人を追跡できない、
ⅲ)所有者や相続人が海外に移住しており、その住所を把握できない、
不動産・相続法務に注力するなかで、相続は、自身と親族周りとで頑張れば、何とかできるかもしれないと思うのですが、不動産における、この隣地関係については、コントロールしきれないので、「事故・トラブルに巻き込まれた」という感覚になります。
3.所有者不明土地、ではないトラブル例
上記に類似した近隣トラブルに思えても、全く異なる類型になるのが、単純に、話がまとまらないとか、了解が取れないだけで、私道所有者や隣地の方が「いる」ケースです。
こちらは話しがこじれると、とても厄介な問題で、実際にご相談があっても、基本的に、裁判所での解決は難しいと回答しています。何かしらの訴訟を立てれば、和解が取れることも多いかと思うのですが、そこまで裁判コストをかけるよりは、そのお金を払ってでも同意を取ったほうが早いからです。そのため、私としては基本的に介入せず、「弁護士費用に使うはずのお金で、同意もらうほうが早いです!」と、本当に回答しています。弁護士が介入するケースは、感情的に表立って、話合い自体を行うことができないようなケースです。その際も、「訴訟」という戦う手続よりも、「調停」という裁判所で話し合う手続を提案することが多いです。
4.
今回は、「所有者不明土地」の問題事例をご紹介しました。
次回は、具体的な解決方法についてご紹介したいと思います。
【弁護士の一言】
今回の記事は、不動産に携わるすべての方により多く知っていただきたい事項です。
一言でまとめるならば、
①空き地系のトラブルは弁護士と裁判所が介入すれば綺麗に解決可能だが、
②本人がいて言い争いになっているケースは裁判所利用しても解決しづらい、
という状況です。
空き地系のトラブルは解決方法を知らずに、「どうしようもない土地だ」と諦めてしまう、所有者、相続人、不動産会社、金融機関の方も多く、所有者不明土地対応の方法がある旨を広く伝えていきたいなと思います。一方、単純に、隣地の方と言い合いになっているケースは解決方法が限定的で、このあたりも制度改正で対処してほしいなと実務家としては切望するところです。
【監修:弁護士法人山村法律事務所】