1.困ったときにできることって?
裁判所で解決できることシリーズです。前回の記事は、以下をご覧ください。
前回を要約すると、
①裁判は、強制執行にて紛争解決するもの
②そのため、強制執行できる判決を出してくれる、給付訴訟が基本
③具体的には、「お金を払ってください」「立ち退いてください」という、お金やモノを動かす訴訟
④給付訴訟の裏返しで確認訴訟というのもあるが、遺言無効確認など、特殊な類型を除いては、あまり用いられない
と、いうことでした。
今回は、境界確定訴訟・共有物分割訴訟という、不動産業界からすると無視できない訴訟を説明することを前提として、形成訴訟・形式的形成訴訟ということから解説していきます。
弊所でも過去に、神奈川県下の境界確定にまつわる案件や、東京都の共有物分割訴訟等を、複数件解決した実績があります。
2.形成訴訟・形式的形成訴訟
(1)裁判の3類型(給付訴訟・確認訴訟)の最後の一つが、「形成訴訟」と呼ばれる類型です。形成訴訟というのは、判決によって、法律関係を形成する=変動させる訴訟類型です。
たとえば、離婚の訴えというものがあり、この裁判で勝訴すれば、「甲と乙を離婚する」という判決がでて、婚姻関係にあった甲と乙が、「離婚した」という法律関係に変動させる判決となります。この判決で権利関係が変動するので、あとはその判決を役所等に届けて各種手続きを終えれば、手続き的にも離婚が完了します。確認訴訟と同様に、ある程度類型的な訴訟類型で、一般的には用いられることが少ない訴訟類型といえるでしょう。
(2)次に「形式的形成訴訟」という訴訟類型があります。形成訴訟の変化形です。
形式的形成訴訟とは、「形成判決が必要だが、形成の具体的基準となる要件がなく、最終的に裁判所が裁量的に判決を出し、請求棄却が認められない」訴訟類型を言います。抽象的な定義をみても、何のことか分かりにくいので、具体例をみて、考えましょう。不動産業界で度々話になる境界確定訴訟は、この形式的形成訴訟に分類されます。
A土地とB土地の境界で揉めた場合、どこかで必ず境界線を引かないと紛争が解決しません。そのため、境界確定訴訟については、請求棄却判決、すなわち訴える前の状態のままでいてください、という判決は出せず、裁判所が「必ず」どこかに境界線を引く、という判決になります。
離婚の訴えと比較します。離婚の訴えの場合は、訴訟提起しても、まだ離婚するに足りる理由はない、まだ夫婦関係が壊れ切っていないから、元のままで、もう少し暮らしてみてください、という意味合いで「請求棄却判決」が出されることがあります。境界確定訴訟が、必ずどこかに線を引くという判決が出るのと異なり、「現状維持」を促す請求棄却判決の余地があるのです。
共有物分割訴訟も同様です。共有物分割訴訟が提起された以上、請求棄却判決が出され、「やっぱり、そのまま共有状態で維持しておいてください」という結論にはなりません。「必ず」、何らかの方法で分割する内容の判決が出されます。
(3)少し理論的な話から入りましたが、境界確定や共有物分割などは、訴訟を行えば、請求棄却判決はなく、「必ず、何らかの判決によって、解決できる手続きが用意されている」、という点を押さえていただければとよいと思います。
3.境界確定訴訟と共有物分割訴訟の実際
(1)境界確定訴訟については、少なくとも私の経験上、あまり多い類型ではありません。境界に関するご相談自体は非常に多いのですが、ほとんどのケースで、法的手続を経ることなく、双方の協議によって金銭的解決が図れることが多いです。少々乱暴に言うのであれば、境界関係による係争金額が(建物建替えや土地売買に比べて)高額ではないので、そこに時間とお金をかけていられない、という事情があるかもしれません。加えて、境界確定が必要な場面では、建替えをしたい・土地を売買したいなど、何かの権利を動かしたいので、時間をかけて争っていられないという状況的要因もあるでしょう。
また、仮に何らかの手続をとるにしても、いきなりこの境界確定訴訟を利用せずに、「筆界特定手続」を利用することが一般的です。筆界特定手続とは、法務局に申し立てる筆界を特定する手続です。境界と筆界とは、細かくいえば異なる概念なのですが、理論的すぎる話なので、ほとんど同じものという理解でよいかと思います。
時間的・コスト的にもこちらのほうが早いので、一般的には境界確定訴訟の前に、この手続で終結することが多いかと思います。あくまでケースバイケースですが、測量と密接にかかわる手続きですので、土地家屋調査士の主導で進め、解決期間としては6カ月前後、設定費用としては、60~100万円未満程度という印象です。
(2)共有物分割訴訟では、基本的に、
①現物分割というそのまま土地を割って分ける方法
②換価分割という第三者に競売で売却して金銭を分ける方法
③誰か特定の人が100%所有権を取得して、他の持分権者に金銭を支払うという価格賠償による方法、
など、概ね3つの判決が予定されています。
しかしながら、実情からすれば、訴訟内にて「和解」で終結するケースが非常に多いです。何故かというと、訴訟になるぐらいなので、双方の言い分がかなり対立して状態なのですが、裁判所が出す「判決」になると、①~③の、どれになるか分かりません。特に②競売から金銭分配の方法で解決になると、双方協力して第三者に売るよりも、競売手続による強制売却のほうが、双方損をする、という結果になりかねないからです。
先日、私が対応した東京都の共有物分割訴訟でも、結局、原告と被告で売却の際のルールを整理して第三者に売却するという方法で、解決が図れました。この解決方法ですと、入札方式をとるとか、双方の売却方法のルール決めなど、むしろ裁判外のノウハウが必要かもしれませんね。
4.まとめ
今回は、形式的形成訴訟という種類の訴訟ですが、不動産界隈では知っておくべき、「境界確定訴訟」と「共有物分割訴訟」について解説しました。
【弁護士の一言】
形式的形成訴訟というカテゴリーで、①境界確定訴訟と②共有物分割訴訟の2つの手続を解説しました。
境界確定訴訟は、実務的に利用することは少なく、共有物分割訴訟は比較的利用することの多い訴訟類型と言えます。境界に関する紛争は、神奈川県下、横浜市内、都内と、際限なくご相談は多いのですが、境界確定訴訟まで行わずに紛争が激化した際にも、「筆界特定手続」という法務局管轄で行う対応で解決することが多いです。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji104.html 【法務局:筆界特定制度】
他方、共有物にて没交渉になった際には、共有物分割訴訟を利用していかないと永遠に終結しない紛争になってしまうことも多いので、詰まったら訴訟というぐらい多用していきます。
訴訟外では話が進まなくとも、訴訟になって、「競売」で売却すると、みんなが損をするから、協力して第三者に売却しよう、という流れに意外になったりするのです。
【監修:弁護士法人山村法律事務所】