弊所 弁護士・寺田の裁判例ノックですっ‼
皆さまに役立つ過去の裁判例を、ご紹介していきますっ‼
裁判例ノック51本目
東京地判 H26.8.5
【概要】
居室の同居人が自殺した際、賃借人への損害賠償請求が認められる一方、賃料保証会社への請求が認められなかったというものです。
契約内容の違いに注目ですね。
【結論】
同居人である賃借人に善管注意義務違反が認められる。本件では、3か月後に新たな賃借人が入居しているが、これは斟酌せず、一般的に入居は避けられがちと認定。
一方、保証契約は、未払賃料を対象とし、賃借人の帰責性ある貸室の滅失・損傷をその対象としないため、保証の対象とならないと判断。
時間経過によって嫌悪感が消滅するというのも一般論であれば、事故後すぐに入居したとしてもそれは斟酌されないという、一般論も成り立ちますね。
また、保証契約について、丁寧な判断がされており、責任を負う範囲が異なるという結論になっています。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック52本目
東京地判 H26.5.13
【概要】
賃借人が共用部で自殺した事故に際して、連帯保証人に損害賠償請求をし、一部が認容された事例。
共用部での自殺の損害賠償を認めた点がポイントと言えます。
【結論】
連帯保証人は、自殺につき善管注意義務違反があれば、因果関係が認められる範囲につき賠償義務を負う。共用部の自殺とはいえ、玄関前であり、入室の際に通ることが不可欠な場所であるため、3部屋分に事故の影響はある。
一方、駅近で流動性もあり、3年の賃料全額は認められない。
共用部とはいえ、玄関の目の前のため、告知義務を負い、3部屋分の賠償が認められることは良い点といえます。また、実際に入居しようがしまいが、嫌悪感が時間によって薄れるスタンスは変わりませんね。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック53本目
東京地判 H23.1.27
【概要】
賃借人の長女が学生向けマンションに入居後、自殺した事案において、長女が履行補助者にあたるとして、賃貸人の請求の一部を認容したもの。
オーナー側勝利の例ではありますが、特殊な例でもあります。
【結論】
自殺が善管注意義務違反にあたる前提のもと、実際に居住していた長女は、履行補助者にあたり、その故意・過失として賃借人は債務不履行責任を負う。その範囲として、新契約までの家賃や原状回復費等に加え、新契約の2年分や、その後の学生が入るピーク時までの損害を認定。
実際に居住していたのが娘であり、その娘が自殺したものであるため、履行補助者という判断がされたものです。
音大生対象というマンションの特殊性から、出入りの多い時期までの損害を認定する等、丁寧な判断がされた印象がありますね。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック54本目
東京地判 H22.12.6
【概要】
賃借人が浴室で自殺をした事例。浴室以外の損耗については通常損耗として請求が認められない一方、浴室をクリーニングしたとしても嫌悪感はぬぐえないとして請求を認めた事例。
きめ細かい事実認定がされた印象です。
【結論】
自殺が債務不履行の対象となる善管注意義務違反になることを認定。エアコン等の取替えは自殺と関係なく、通常損耗として対象とならない。
一方、ユニットバスは、遺族による清掃が行われたといえ、嫌悪感はぬぐえず、賠償の対象となる。また、逸失利益は客観的賃料相当額を対象にする。
自殺と関係のないエアコン等の交換は認めず、ユニットバスの清掃程度で減額を認めず、というバランスの取れた裁判例です。
貸室自体は、相場よりも賃料が高めでしたが、逸失利益については、客観的な賃料相場をベースにした点も参考になります。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック55本目
東京地判 H22.9.2
【概要】
賃借人が無断で第三者に転貸したところ、第三者が自殺したもの。賃貸人の、賃借人と連帯保証人に対する請求の一部が認容されたもの。
賃貸人の請求があまりに大きく一部認容だが、実質、賃貸人勝利と言っていい内容です。
【結論】
転貸等により居住した第三者が自殺した場合、嫌悪感により賃料を減額した賃貸せざるを得ないことは明らかで、賃借人は善管注意義務を負っている。そのため、原状回復費用はもとより、減額賃料分も支払う義務を負うが、利便性がよく流動性の高いマンションであることも加味。
請求の一部を認容。
無断で転貸させていた人物の自殺における賃借人の責任は、特別な論理なく当然に認めた印象です。加えて、心理的嫌悪感減少が認められるとしても、計360万円の請求が認容されており、かなりの額が認められたものといえます。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック56本目
東京地裁 H22.3.29
【概要】
賃借人が別の場所で自殺した後、賃借人の同居人が居室内で自殺したもの。賃借人の相続人らに対する請求で、賃貸人が負けた事例です。
所謂法律論的なお話の裁判例にはなってしまいます。
【結論】
同居人が履行補助者にあたるか否かについて、履行補助者の行動が債務者の意思に基づいているとみなされる関係にあり、相続人と同居人との関係で判断すべきとの基準にによる。相続人は、賃借人と同居人の関係を知らず、自殺当時、相続人の意思によるものとみなす根拠は何もないと判断。
同居人の行動が履行補助者にあたるか否かという点が大きな争点でした。相続人との関係で、というところが厳しい点で、履行補助者と認められないとの判断です。
オーナー側からすれば、歯がゆいところですね。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック57本目
東京地裁 H19.8.10
【概要】
賃借人が自殺したことを理由として、隣や下の階の部屋についても損害賠償請求をできるかどうかというもの。
自殺の告知義務ともかかわる内容で、実務的にも注目すべきものでしょう。
【結論】
自殺そのものが善管注意義務違反となり、それを連帯保証人も負うことは認定。もっとも、当該居室以外の部屋については、自殺があったことの告知義務を負わないため、賃貸に困難を生じることはないとして損害は認められないと判断。
隣接住戸につき、宅建業において、事故を知っている場合は、一般的に説明をする義務があると言われる一方、裁判上では告知義務はないという判断がされ、大きな乖離があるといえます。
裁判上の請求が妨げられるため、オーナー側にとっては厳しい判断と言えるでしょう…。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック58本目
東京地裁 H13.11.29
【概要】
借上社宅において従業員が自殺した場合、使用者に対して損害賠償が認められた事例。
履行補助者論や、貸室のタイプによっての損害論等を論じているオーナー側勝ち事例なので、参考になります!
【事案】
マンション管理業務を行う転貸人が、借上社宅として使用するために転借人に転貸。その後、居住していた従業員が貸室内で自殺。1ヶ月後、契約は解除。修繕費等の支払は行ったものの、転貸人は今後10年間従前賃料の半額でしか賃貸できなくなったと主張し、損害賠償を請求。
【結論】
自殺が善管注意義務にあたり、同違反があることを認定。実際に居住している従業員を履行補助者とも認定。そのうえで、貸室における心理的瑕疵は年月の経過とともに希釈されるとし、本件のような大都市の単身者用アパートについては、2年経過で瑕疵と認められないと判断。
以前に紹介した同居人についてもそうですが、実際に利用していれば履行補助者として認定はできるようです。具体的な損害額は、貸室のタイプや事故の状況等、諸般の事情を考慮して判断されるようなので、一般化が難しいものといえます。
【文責:弁護士 寺田 健郎】
裁判例ノック59本目
東京地裁 H5.11.30
【概要】
借主が貸室内で殺人、その後投身自殺を行った事案で、連帯保証人に対する損害賠償請求が一部認められた事例。
古めの裁判例ではありますが、既に新しい裁判例の基礎となる判断と同じものがなされています。
【結論】
変死事件によって、マンションの交換価値は下がるだろうし、一定期間賃貸も困難になるであろうから、因果関係のある損害となっている。もっとも、直ちに売却する予定もなく、4年程度経てば通常の賃貸が可能となり、賃料の減収と修理費用が損害となると認定。
本件は、賃借人の用法遵守義務違反と善管注意義務違反を認め、連帯保証人に損害賠償責任を認めたものです。これまでに紹介してきた裁判例を見ていれば、当たり前のような裁判例ですが、平成5年の裁判例において、しっかりとこの基準がすでに出ています。
【文責:弁護士 寺田 健郎】